吉田正美&茶坊主(フィーチャリング菊地まみ)『トゥリー・オブ・ライフ』

絶対にCD化されないと思っていたアルバムだし、しばらく忘れていたのですがamazonで偶然見つけて思わず購入してしまいました。『Light Mellow和モノ669』なんてガイド本に載っているおかげで再発されたらしいです。

「精霊流し」で有名なグレープが解散して1976年には、さだまさし、吉田正美共にソロ・デビューしました。当時グレープは1枚も持っていないのに何故か両方ともソロ・アルバムを買っていました。さだまさしはグレープの延長と言う感じのアルバムでちょっと重たい感じの曲なんかも入っていました。その一方でこちらのアルバムは意表をつくサウンドでグレープの面影はほとんどありません。バックバンドの茶坊主はグレープのバックバンドが母体になっているそうです。1976年というと山下達郎、大貫妙子、高中正義がソロ・デビュー、荒井由美は「14番目の月」、矢野顕子、尾崎亜美デビュー、前年にティンパン・アレーやセンチメンタル・シティ・ロマンスがアルバムを出したり、オフコースがバンド志向になる直前といった感じでニュー・ミュージックが面白くなってきた頃でした。クロスオーバーなんて音楽も出てきた頃、シティ・ポップス、フュージョンなんて言葉はもちろんまだありませんでした。

この吉田正美のアルバムですが、たぶんグレープを期待したかたに少し売れた程度であまり話題にもならなかったと思うのですが、今で言うシティ・ポップスやクロスオーバー・フュージョンのサウンドを先取りしていてとても心地良い曲が入っているんです。この中で特にすごく好きな曲が3曲あるのですが、サンバとかボサノバの要素を取り入れた曲で同じモチーフを別のアレンジでやっています。この3曲はテープに抜き出して続けて聴いていたこともありました。他にもちょっと面白い感じの曲が満載です。

『トゥリー・オブ・ライフ』(VIVID RATCD4322)

吉田正美&茶坊主(フィーチャリング菊地まみ)

1. FOR FREEDOM
フォークっぽいアコースティック・ギターのイントロからいきなりドラムとエレキ・ギターの音、菊池まみのダダダスキャットとギターがメロを弾き、間奏のエレピのソロとエンディングのギター・ソロもすごくかっこいいです。この曲は8、10曲目で別アレンジでも聴けます。

2. 空を駈ける魔法の杖 
ギターが高中正義みたいなサウンド、カッティングとかもフュージョンぽい。菊池まみのボーカルはそんなにうまいとも思えないのですが大貫妙子のような繊細な高い声が雰囲気でています。

3. Eurydikeの詩
アコースティックギターの音とかイントロの感じはなんかキング・クリムゾンの宮殿をイメージさせます。途中のベース、エレピ、ドラム、アコギのソロはジャズ・ロックぽい感じで斬新。なんかプログレっぽい曲です。

4. 12回目の朝 
 唯一フォークぽい感じの曲。吉田正美のボーカル。菊池まみの囁く台詞がなかなか。

5. 鎮魂歌
当時この曲あまり好きではなかったんだけど、今聴きなおしてみるとこの曲なんかクリムゾンのエピタフみたいな曲だな。後半に入るさだまさしのバイオリンといい、バタバタするドラムといい絶対クリムゾンぽい。叙情的で暗い曲です。

6. カララン カラタケ 知っている
ハーモニックスを多用したアコースティックギターが日本的な風情を出している。矢野顕子ぽいと思ったら彼女の作曲だった。コーラスで矢野も参加している。ザバダックがやっても合う感じの曲です。

7. 12月の部屋
ユーミンがやりそうなタイプの曲、声の感じが大貫妙子だな。メロウな感じのシティ・ポップスです。

8. A ROUND OF MARTINIS
1のメロをボサノバっぽくしてハモンドオルガンをバックに菊池まみのパヤパヤ・スキャット。すごいお洒落な曲になりました。映画の映像が合いそうです。

9. RAINY STREET
7と同じタイプの曲。正当派のシティ・ポップです。ティンパンがバックの曲でよくこんな感じのアレンジをすると思います。エレキギターのアレンジがそんな感じです。

10. NIGHTMARE(夢魔)
1のメロに英語の歌詞をつけたものです。サンバのこの曲がすごく好きです。エンディングのアコースティック・ギターソロもかっこいいし、まさに僕の音楽嗜好にマッチしています。こういうブラジル感大好きなんですよね。当時はまだそんな音楽聴いていないのだけど、後に買い漁るいろんな音楽の原点のひとつかも。

11. おもちゃのチャチャチャ 
いきなり童謡...コーラスは笑い声とか入ってほとんどお遊びなんだけどフュージョンサウンドのアレンジがけっこう気持ちよかったりします。

12. 黄昏色に心をそめて(アルバム未収録シングル)[Bonus Track] 
この曲は初めて聴きました。アルバム発売前に出たシングルだそうです。吉田正美と菊地まみが半々でボーカルを取り合うデュオ曲。いわゆる売れ線を狙ったポップ曲ですね。

全体を聴きなおしてみるとバラエティに富みすぎてちょっとまとまりのないアルバムになってしまっているところがとてもおしいです。2,4,11,12を外してなんか別の曲にするといいんだけどな。

最後にライナーに書かれていた仰天の事実を引用します。へ~x10って感じ。こんなところで同じような趣味で繋がっていたとは....

グレープは元々楽器指向だったんです。僕は直前までフル・アコのジャズ・ギターを抱えていたし、さだはクラッシック育ちのヴィオリン弾きでしょう。だから当時流行っていたヴィバルディの<四季>を取り上げて、僕がデュオにアレンジしてね。それにインストゥルメンタルのオリジナル曲とか、ジャン・リュック・ポンティ(ジャズ・ヴァイオリン奏者/元マハビシュヌ・オーケストラ)とか。全然フォークじゃないんです。..(中略)..彼らはヴィオリンを効果的に使ったスタイルを模索し、先鋭的なジャズ・ロックやクラシカルなヨーロピアン・プログレを聴き漁った。ライヴ盤「三年坂」に<バンコ>という吉田作の異色作があったが、イタリアに同名バンドがいたのは、決して偶然ではないだろう。

CDライナーノートより

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