Wicked と Get Happy / Happy Days Are Here Again

2025年11月に「Wicked part 2: Wicked For Good / ウィキッド 永遠の約束」が世界で公開され、韓国や台湾もほぼ同時公開だったのに日本では2026年3月6日やっと公開になります。公開記念と言うわけではないですが、主演の二人シンシア・エリボ (Cynthia Erivo) とアリアナ・グランデ (Ariana Grande) の歌う「Get Happy / Happy Days Are Here Again」と言う曲についてXにも書いたのでここでもまとめておくことにします。

この曲は映画「Wicked For Good」公開直前プロモーション・イベントの目的で、2025年9月24日ロサンゼルスのドルビー・シアターで収録されました。その後、他の出演者とのトーク場面を組合わせて編集され、11月6日「Wicked: One Wonderful Night」としてNBC TVで放送、翌7日、映像とサウンド・トラックが配信開始、11月21日「Wicked For Good」が公開となりました。このイベントで披露された曲は前作 part 1 と続編の中で使われた曲ばかりでしたが、クライマックスとなる最後の曲だけは彼女たちのこだわりの選曲で映画以外の曲となったとのことです。

お手本としているのは1963年ジュディ・ガーランド・ショーでジュディ (Judy Garland) とバーブラ・ストライサンド (Barbra Streisand) が共演したものです。(冒頭のジョークのやり取りがいかにも昔の米国テレビショーって感じで笑えるのですが、歌のパートでは新人のバーブラを先輩のジョディが優しく見つめたり、腕をとったりしながら気遣っているのが感じられてほっこりします。)

「Wicked」は「オズの魔法使い」に登場する「西の悪い魔女」と「善い魔女グリンダ」の知られざる友情を描いた前日譚です。日本だと「桃太郎」や「かぐや姫」みたいに誰もが子供の時に通る童話「オズの魔法使い」は、1939年(昭和14年)に米国で当時16歳のジュディ・ガーランド (Judy Garland) 主演でミュージカル映画化され国民的な映画になり、ジュディも国民的スターとなりました。この映画は当然アリアナとシンシアも再放送をTVで観ていて、特にアリアナは「オズの魔法使い」も含めた「ウィキッド」オタクでジュディを崇拝しています。アリアナはきっとこの映像と同じように二人で腰掛けて座りながら歌うのを再現したかったのでしょう。

また、2010年にドラマ「glee / グリー」でもカヴァーされているので、こちらはリアルタイムで観ている可能性もありますし、ブロードウェイ舞台「Wicked」初演のグリンダ役だったクリスティン・チェノウェス (Kristin Chenoweth) も2020年には舞台2004年のエルファバ役ショシャナ・ビーン (Shoshana Bean) との共演でジュディのパートを、2022年のルーファス・ウェインライト (Rufus Wainwright) との共演ではバーブラのパートを歌っています。これらにもきっと影響されているかもしれません。

さて、カヴァーの大元がジュディ・ガーランド・ショーのバージョンというのは判りましたが、実はジュディのカヴァーで持ち歌である「Get Happy」とバーブラのカヴァーで持ち歌の「Happy Days Are Here Again」を一緒にした編曲がどのように生まれたのか?についてとても興味を持ちました。まずは元の編曲がどうだったのか聴いてみましょう。

「Get Happy」は、ハロルド・アーレン (Harold Arlen) 作曲、テッド・ケーラー (Ted Koehler) 作詞で、オリジナルは1930年の舞台ミュージカル『ナイン・フィフティーン・レヴュー (The Nine-Fifteen Revue) 』で使われたものらしいのですが確認できませんでした。代わりに同年の別のレコード(ボーカルは1:20辺りから)を貼っておきます。

初出の約20年後、ジュディ・ガーランドは1950年のMGM映画「サマー・ストック (Summer Stock) 」でカヴァーした後、自身の代表曲の一つとしてコンサートでも歌い続けてきました。編曲がより軽快なジャズ調になってはいますが、1963年ジュディ・ガーランド・ショーでの編曲とは全く雰囲気が異なっています。同様の編曲はレコードやCDにライブ音源が数種類残されています。

「Happy Days Are Here Again」は、ミルトン・エイガー (Milton Ager) 作曲、ジャック・イエレン (Jack Yellen) が作詞です。1930年の映画『Chasing Rainbows』(邦題:虹を追って)では、レオ・レイスマン (Leo Reisman) と彼のオーケストラにルー・レヴィン (Low Levin) のボーカルで1929年11月に録音されたものが使われたようです。また、主演俳優チャールズ・キング (Charles King) も映画とは別に1929年9月24日に録音しており、こちらの方がオリジナルなのでしょうか?この曲はのちにルーズベルト大統領の関係で民主党の裏テーマ曲にもなったらしいです。


初出の30数年後の1963年当時、バーブラ・ストレイサンドのカヴァーにはシングル盤とアルバム盤で編曲の異なるものが2種類ありました。1962年の彼女のデビューシングルと1963年のデビューアルバム内のものです。どちらも1930年とは全く雰囲気が変わりスローでジャージーな編曲となっていて、1963年のジュディ・ガーランド・ショーの雰囲気に近いです。

シングル盤の編曲はフランク・シナトラなどの編曲も手がけたジョージ・ウィリアムズ (George Williams) 。アルバムのほうはピーター・マッツ(Peter Matz)によって新たに編曲・指揮されたものですが、この人はジュディ・ガーランド・ショーの編曲も担当していました。先に発表されたシングルでジョージ・ウィリアムズがスローなジャズ・バラード調に編曲し、アルバム版ではピーター・マッツがバックのギターを追加したりオーケストラをより前面に出してゴージャス感を付け加えています。

ここまででそれぞれの曲の変遷がわかりました。バッキングのメロディや曲の速さの雰囲気はジュディ・ガーランド・ショーにゲスト出演したバーブラの「Happy Days Are Here Again」をベースに、ジュディの「Get Happy」を対位法を使ったメドレーとして合体させたのでしょう。調べてみると、基礎となるアイデアを出したのは番組の音楽顧問だったメル・トーメ (Mel Tormé) で、ピーター・マッツと共に練り上げたのだそうです。共に1930年頃の曲がこんな素敵なデュエット曲になるなんてまさに匠の技って感じです。

ジュディもこの編曲を気に入り、コンサートに娘のライザ・ミネリ (Liza Minnelli) が同行している時には一緒に歌ったりもしていました。


最後に、この曲の殊勲賞は大胆に早さを変えて編曲したジョージ・ウィリアムズ、そして天才的なアイデアと編曲担当のメル・トーメ、ピーター・マッツの二人。でも類稀な歌唱力の歌手二人が合わさることで、さらに何倍にも良い曲になるという事がとても良くわかりました。(このバージョンの音源はTVショーのみで当時はレコード化されませんでしたが、90年代以降ジュディのコンピレーションアルバム、バーブラのコンピレーションアルバムにそれぞれ収録され、2026年時点では音楽配信サイトでも聴くことができます。)

そしてアリアナ・グランデとシンシア・エリボ二人の歌唱力も先輩たちに全く引けを取らないばかりか、二人の声のバランス、歌い方の強弱や響き等、相性がすごく良い気がしました。ジュディは既に亡くなっているのでバーブラはもうジュディとは歌えませんが、良い曲は誰かが継承していってほしいし、先人をリスペクトしているアリアナとシンシアの二人にはまた機会があれば歌い続けてほしいななんて思いました。(凄く楽しそうに歌っていますよね。)


蛇足:アリアナのジュディ愛が見れる動画



蛇足2:現代ポップスアレンジ版 Happy Days Are Here Again / Get Happy

ブロードウェイ・ミュージカル「キンキー・ブーツ」でトニー賞を受賞した俳優兼歌手のビリー・ポーター (Billy Porter) が、同ミュージカルで作曲を担当したシンディ・ローパー (Cyndi Lauper) をフューチャーして2014年のアルバムに収録したバージョンは、冒頭がビリーの歌うジュディのパート「Get Happy」のみで進み、途中からバーブラのパート「Happy Days Are Here Again」を歌うシンディが絡んでくる編曲。伴奏が現代風なのでソウル・バラードと言った感じで1963年版や最新の2025年のシンシア/アリアナ版とは全く雰囲気が変わるのが面白い。編曲のクレジットは無いが、キーボード・ミュージシャンで多くのアーティストの録音で演奏と編曲も兼任しているロブ・マウンジー (Rob Mounsey) のプロデュースなので少なからず編曲にも係わっていると想像される。曲のタイトルの順が逆なのは不明、シンディのパートの曲名を先にして敬意を表したのかもしれない。なお、シンディは1980年代にはいくつかのヒット曲を連発し、グラミー賞も受賞した歌手でもある。